前回は作家・小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)の足跡に
迫って参りましたが、今回は引き続きの塩見縄手散策から。
小泉八雲旧居が彼の暮らしぶりを留める場所ならば、
今回は江戸時代のまま、武家の暮らしたままの
面影残る屋敷を巡り、夜はおいしいお酒&ごはんを
求めて夜の松江市街へと繰り出します。

前回の「小泉八雲旧居」「小泉八雲記念館」から少しの処、
同じく塩見縄手沿いに現存する施設、その名も
武家屋敷○○家とかでは無く、とてもストレートである。
建物は享保8(1733)年に発生した
大火による焼失後に
再建されたもので、一時は「塩見縄手」の名の由来ともなっている
松江藩中老・
塩見小兵衛(しおみ こへえ)も住まいとし、
500~1000石の扶持を持つ藩士が入れ替わり立ち代わりに住んでいたそう。
明治以降一般公開に至るまでは漢文学者・瀧川亀太郎(たきがわ かめたろう、君山と号す)を
輩出した
瀧川家の所有となっていました。

長屋門に設けられた事務所で受付を済ませ、母屋へ上がります。
ここ武家屋敷は平成28(2016)年より
保存修理工事が行われ、
3ヵ年に及ぶ調査・修復を経て今年夏に
リニューアルオープンしたばかり。
この場所も3年前の家族旅行にて訪れていたのですが、
なるほどその時よりも「ピカピカ」になっているように感じます。
え~、私事で大変恐縮なのですが、この時マイカメラが
電池切れ寸前となっており、
電池節約の為この先ほぼ
調整・修正なしで
撮影しております。
見にくい部分も有るかと思いますが、なにとぞご容赦ください。

母屋内へは、家人が出入りしたいわゆる
プライベート向けの
内玄関から入ります。
ここから直接「裏側」の私的空間へと繋がっており、
写真奥には家主の夫人が住まいとした
奥方部屋が
見えています。

こちらが来客を迎え入れるための
式台玄関(しきだいげんかん)
庭に面し、私的空間に触れることなく座敷に隣接した配置となっているのが特徴。
家の主人が平身低頭し、客人を出迎えている様子が人形で
再現されています。
松平のお殿様でもやって来たのでしょうか?
ちなみに玄関の呼称となっている
式台ですが、
玄関上がり口の一段低くなった台を指す言葉。
段差の解消と地面へ降りること無く駕籠への乗り降りを可能とする
設備で、客人の従者が控える
控え室としても
使用されました。

式台玄関に接し、前庭を眺める位置に主人が来客を遇するための
座敷が設けられています。
武家屋敷では定番である
書院造の空間には、
柾目(まさめ、木材に対し平行に走る木目)を用いた
長押(なげし、柱の面に対し平行に打ちつけ、柱同士を連結する部材)や
九曜紋(大きな円の周囲を小さな8つの円で囲った紋章)で象った
釘隠しが多用され、
部屋に彩りを添える調度品も良く整えられています。
床の間を背にした場所では、主人が客人を歓待中。
どっしりとしたその風貌からは、ドラマで大御所俳優が
演じていそうな貫禄が感じられます(笑)

こちらが九曜紋の
釘隠し武家の屋敷や城郭建築でよく見られる技法で、
長押や扉等に打ち付けられた釘を覆い、見栄えを良くする
ための工夫。
客人の目に触れる座敷では過度な装飾性は避けつつ、
見る者に屋敷の格調を感じさせる装いとなっています。

「表側」の次は、住人が日常住まいを過ごした「裏側」へ。
こちらは屋敷の主人が使う
当主居間家財道具が並ぶ空間は、表の座敷と異なりシンプルな造り。
しかし長押に木材そのものの丸みを残した
面皮(めんかわ)を
使ってみたり、
釘隠しはかわいらしい
雀の形であったりと、遊び心も。

寛ぎの空間である居間には、
癒しの要素も必要。
当主が座したであろう位置からは、開け放たれた障子越しに
裏庭を見通すことが出来ます。

武家の嗜みとされる
茶道大名茶人・
松平治郷(不昧公)が治めた松江では
武士のみならず町民にまでその文化と心意気が広まっており、
藩士の住まいたるこの屋敷に
茶室が設けられているのも、
当然のことと言えましょう。

当主の奥方が住まいとした
奥方居間衣装を仕舞ったたんすや、家財道具が残されています。

住人の食事を用意したであろう
台所立派な釜が用意された空間には、
他の部屋と異なり
天井板がありませんこれは炊事の煙を充満させずに外へ逃がすための工夫。
この周りには
湯殿(ゆどの、お風呂場)や
味噌・漬物等を貯蔵・保存するための
味噌部屋が
設けられています。

裏庭。敷地内には井戸の他、
瀧川君山(たきがわ くんざん)を
顕彰する碑が建てられています。

通りに面して建てられた
長屋門は、門番や住人に仕える
中間(ちゅうげん、屋敷に出入りする人の監視や案内等、雑務をこなす職分)が
住まいとする
中間部屋を兼ねていました。
各部屋には
物見窓と呼ばれる格子窓が空けられ、
塩見縄手を見通すことが出来ました。

屋敷を後に、延々続く塀を横目にしながら「松江ニューアーバンホテル」へ戻ります。

天然温泉に浸かりながら一息吐くうちに、夜になりました。

カメラの充電も完了し、おいしい味処を求めて夜の町へ。
小洒落た石畳が楽しい
京店商店街(きょうみせしょうてんがい)を
歩きます。

昼間は松江の特産品を扱うショップが集う通りも、
夜には
飲み屋街へと変身!
和洋さまざまな食事処や居酒屋が軒を連ねます。

ゆるゆる歩いた末に辿り着いた、
馬やどメインとなるのは島根県を代表するグルメ、
出雲そばなのですが、
山陰各地のお酒や山海の幸をふんだんに使った一品料理も楽しめる、
グッドなお店。

まずは一杯。隠岐島生まれのお酒・
隠岐誉(おきほまれ)を
常温にて、お通しとともに頂きます。
昼間に「松江ごころ」で試飲させて頂いた「李白」にも通じる、
さっぱりとしたクセの無い口当たり。

メインに頼んだのは、出雲そば!・・・では無く、地元産の海の幸を
載っけた
海鮮丼卵を溶き、だし醤油を掛けて掻き込みます!
日本海といえばやっぱりコレ!白身魚の王様・
ノドグロ!軽く焼き目の付けられたお刺身は、口の中でとろけんばかりの味わい!
身にたっぷり蓄えられた脂が、じわじわ染み出して参ります。
ああ・・・
至福
ここでも食べます、
大山鶏(だいせんどり)
倉吉で食べた時とは異なる焼き加減が、また
いいんです!
腹を満たし、
堀川沿いをお散歩。




翌日訪れる「カラコロ工房」も、美しくライトアップされています。

お楽しみは、宿に戻ってからも。
私を待っていたのは、「松江ごころ」で購入した
李白の
純米酒お隣に並ぶのは松江市内に店を構える老舗菓子舗・
御菓子司 彩雲堂(さいうんどう)の
人気№1商品、
若草ふっくら、もちもちとした
求肥(ぎゅうひ)に
手作業で
寒梅粉がまぶされており、
名前通り草葉萌ゆる
春を思わせる
若草色の見た目。
しっとり、上品な甘さがたまりません。
その来歴は由緒正しく、大名茶人・
不昧公(ふまいこう、松平治郷)が
茶席にて好んで食し、彼が残した和歌より名付けられた、というもの。
しかし時代が下るとその伝統と製法は途切れ、
幻の味と化していました。
それを復活させたのが、彩雲堂初代である
山口善右衛門(やまぐち ぜんうえもん)
文明開化の世の中に在って、善右衛門は土地の古老や
茶人に伝わる
言い伝えを基に研究を重ね、
ついに
若草の復元に成功しました。
(以上彩雲堂公式サイトより)
この先人の努力と情熱の甲斐あって、いまでは「不昧公好み」の伝統の味を、
誰でも気軽に味わうことが出来ます。
松江城を始めとする城下町の情感(ダジャレじゃないです)、土地の味を
堪能し尽くした一日。
しかしまだまだ見切れていない場所はたくさん有る!
土地の魅力や見所を探り、現地の仔細を見て回り、その上で
さらにその土地の良さを再発見する!
これこそ旅の醍醐味ではありませんか。
次回は山陰旅もついに最終日に突入!
京店商店街の近傍、レトロな建物が立ち並ぶ堀川沿いを歩きます。
それでは!